中医学を楽しく学ぶ!出発はこの本から!書籍「中医学の仕組みがわかる基礎講義」の著者兵頭明先生にインタビューしました!
数千年という長い歴史を経て裏付けされてきた中医学。西洋医学は、科学的なエビデンスを元に発展しましたが、中医学は膨大な実践経験に基づく経験医学と言えます。そして、中医学は独自の体系を持つことが特徴でもあります。
書籍「中医学の仕組みがわかる基礎講義」は、中医学の第一人者である兵頭明先生が、難解と感じる中医基礎学を、システマティックに簡潔にまとめた1冊です。
兵頭先生は、本書の冒頭で「すべての医療職種が西洋医学の考え方を共有しているように、鍼灸師と医師、歯科医師、コ・メディカルが東洋医学というもう一つの理論的基盤を共有することによって、東洋医学をベースにした医療連携も可能になると考えます」と述べています。
2018年の発売以降、人気のロングセラーとなっている本書は、中医基礎学を簡単にマスターできる「読む」講義書として多くの方々にご愛読いただいています。
・中医学が簡単に理解できるようになるって本当ですか?
・著者の兵頭先生からお話をぜひお聞きしたい!
との声にお応えして、2024年第一弾企画として兵頭 明先生にインタビューしました!
書籍「中医学の仕組みがわかる基礎講義」について
東洋医学の根本である中医基礎学。本書は、システマティックな考え方を持つ中医学を口語体の講義形式でわかりやすく解説。東洋医学を全く知らない人でも理解できるように執筆されています。
気・血・津液・精といった生理物質や蔵象理論と六腑の生理といった東洋医学の生理学的側面から入り、病因、病理・病態、そして病証へと進めて、東洋医学の「医学」としてのエッセンスだけを無理なく無駄なく理解できるような構成になっています。
著者が養成施設などで実際に行っている中医基礎学の講義を紙上で再現。抽象的な概念も、身近な例を挙げ、理解しやすい言葉で説明しています。
豊富な図版、知識の定着を図るまとめドリルと解答付き!赤枠で囲んだミニコラムの情報は自身の健康増進にも大いに参考になるでしょう!
本書は中医鍼灸をはじめとした伝統鍼灸を学ぶ最初の第一歩に最適です。
兵頭明先生のご紹介
日本と中国の国交回復後の第1期国費留学生として、1974年から中国・北京に留学。1982年、北京中医薬大学卒業。1984年、明治鍼灸柔道整復専門学校(現・明治東洋医学院専門学校)卒業。
同年より学校法人後藤学園に勤務。学校法人衛生学園中医学教育臨床支援センター長、天津中医薬大学客員教授、神奈川歯科大学特任教授。(一社)老人病研究会常務理事、(一社)日本中医薬学会理事、日本伝統鍼灸学会顧問。
著書(共著)に『中医学の基礎』、『中医鍼灸 臨床経穴学』『針灸学』[基礎篇][臨床篇][経穴篇](いずれも東洋学術出版社)、『中医学の仕組みがわかる基礎講義』(医道の日本社)他訳書多数。
中医鍼灸、鍼灸治療の学術活動および、医科大学で「医師のための中医学セミナー」「実践東洋医学講座」と題して、様々な診療科の医師に向けたセミナーでの講師を行う。
兵頭明先生にインタビューしました!
――改めて、本書への思い、または本書の特徴を教えてください。
兵頭 まず本書を読まれる中医学の初学者の方々に、中医学の考え方がどのように日常生活や身の回りの出来事などと密接な関係にあるのかを知っていただきたい、身近に感じていただきたいという思いがありました。それが本書の「赤枠で強調されたミニコラム」の内容です。
また、身体や心の不調が起こる謎の解明にふれていただき、それが読者の興味をそそり、中医学をもっと勉強したいというモチベーションの維持とアップにつながることを、とても意識しました。
本書の特徴としては、中医学の基本的な考え方を紹介しながら、たえず読者に問題を投げかけ、あるいはヒントを提示しながら、読者に少し考えてもらいながら解答に結びつくように配慮しているところにあります。その目的は、中医学の知識を暗記するのではなく、まず「中医学の全体的な仕組み」を理解していただくことにあるのです。
――どんな方に読んでいただきたいですか?
兵頭 もともと本書の内容は、鍼灸専門学校に入学されたばかりの新入生を対象に、東洋医学の考え方と東洋医学の全体的な仕組みについてわかりやすく講義した内容を整理したものです。
ですから、東洋医学に興味のある医学部生、薬学部生や多くのコ・メディカル医療系の学生さんたちにも、ぜひ読んでいただけたら、きっとご自身が進む先で知識が役立つと思います。
そして多くの医療系学生の東洋医学同好会ネットワークのようなものを創っていただけたら、良いなと思っています。そうすると、彼らが卒業してそれぞれの国家資格をとった後、それほど遠くない将来において東洋医学の考え方を共有した、新たな他職種医療連携の芽がめばえてくるかもしれませんね。
――兵頭先生は中医学の第一人者でいらっしゃいますが、なぜ、中医学の道を選ばれたのですか?
兵頭 魅力を感じたのは、まず中医学の「時に応じて、地に応じて、人に応じて、適宜に対応させる」という考え方です。
それから整体観念(統一体観)も素晴らしい考え方ですね。そして、たえず因果関係をはっきりさせて、すべての問題を解決するという考え方と具体的な方法にとても魅力を感じました。
因果関係の「因」にたいする本治法、因果関係の「果」にたいする標治法、そして必要に応じて用いられる標本同治法、これらは何にでも通じる素晴らしい問題の解決法だと思います。
私のもともとの専門は国際貿易論、国際金融論でしたが、中医学を学んでいるうちに中医学のこのような考え方は政治にも、経済にも応用できるのではないかと思いました。でも中医学のこのような考え方と方法を、医療の中で実践すれば実践するほど、私は医療から離れることができなくなってしまい、今日に至っているわけですが、中医学に完全に魅了されたわけですね。
――本書の中の「赤枠で強調されたミニコラム」は、より身近な実生活における、中医学の考え方がとてもわかりやすく解説されています。本書は学問を知識にとどめず、実生活や治療に落とし込む考え方やエッセンスが詰まっていました。実生活に結びつけて考えたり、患者さんへの説明に活かせそうですね。
兵頭 そうですね。本書の冒頭の「はじめに」のところでも紹介しましたが、本書の内容は鍼灸専門学校に入学したばかりの新入生を対象にした講義をまとめたものです。
新入生にいかに中医学に興味をもってもらい、中医学を好きになってもらい、そのモチベーションを3年間維持しながら高めるためには、講義の内容を実生活や具体的な治療に落とし込み、一緒に考える時空間を共有することをとても大切にしてまいりました。
そして卒業後にも学んだこと、身につけた考え方と技術をさらに実践してもらえるようにすることが、入学時の学生さんたちに対する私の一般目標であり、行動目標ですので、結果として私の講義内容は、中医学の考え方を「実生活や治療に落とし込む」内容とか考え方が多くなっているのだと思います。
実生活に結びつけて考える習慣と癖を身につけて欲しいということを授業では、いつも話をさせていただいています。この習慣が身につくと、自ずと患者さんにもわかりやすく説明することができるようになるわけですね。
――兵頭先生は本書の「はじめに」で、鍼灸師と医師、歯科医師、コ・メディカルの医療連携、東西両医学の融合のため、中医学が重要であるとおっしゃっていましたが、その事について、兵頭先生のお言葉で伺いたいです。
兵頭 私の言葉というよりは、つぎのようなエピソードがありましたので紹介させてください。かれこれ30年以上前の話になりますが、ある大学病院東洋医学科の教授にこういうことを言われました。
「兵頭先生のまわりにはいつも多くの診療科の専門医の先生方が集まりますが、それは何故だかわかりますか。それは先生が中医学の専門家だからだと私は思いますよ。中医学の専門家である兵頭先生は、ジェネラリストなんです。だからいろいろな診療科の専門医の先生方が、中医学を学ぼうとするときには先生の周りに集まるんだと思うんだけど、違うかな?」
この言葉が、すべて今言われた質問の答えになっていると思いますが、いかがですか?
中医学が総合診療医学だとすれば、複数の診療科を横につなぐことができる、架け橋になれるのではないかと思います。
ある大学の付属病院で毎週1回、連続で合計20回の中医学セミナーを依頼されたことがありますが、その時は10以上の診療科の先生方がとても熱心に受講されました。このことからも分かるように、異なる診療科の壁をとりはらって中医学の考え方を共有することができれば、一つにまとまれるのではないかなというところに、中医学の重要性、役割があるのかなと思っています。
――ずばり、中医学を学ぶ面白さを私たちに教えてください!!
兵頭 一言でというと、ありきたりかも知れませんが、「多くの様々な患者さんやご家族の方々に喜んでいただける」ことかな。中医学を学ぶ面白さというよりは、これからの日本における中医学の果たせる可能性の一つについて考えてみると、中医学を学ぶ面白さ、可能性が見えてくるかもしれませんね。
たとえば、現在の日本は世界一の超高齢社会であり、そして認知症の方々がたくさんいらっしゃいますね。ご存じだと思いますが、日本はすでに「3人に一人がご高齢者で、そしてご高齢者の5人に一人が認知症者」という時代に入っています。多くのご高齢者は多臓器疾患を患っておられ、あるいは老年症候群により複数の不定愁訴に苦しんでおられ、そして複数の診療科にかかっておられます。
中医学は、複数の診療科にまたがる老年症候群の多くの不定愁訴を横断的に同時に緩和させることができる、可能性が大いにあります。これも中医学を学ぶ面白さの1つと言えるでしょう。
ずばり!「現在、そしてこれからの日本では、中医学の考え方と方法が、今以上に必要とされることでしょう」、つまり現在の日本の時代的な背景、そして社会的なニーズに中医学が応えることができるとしたら、これ以上に楽しいことはないでしょうね!中医学を学ぶ面白さは、まさにここにあると思います!
――本日はお忙しい中、本書と中医学のこと、貴重なエピソードなども教えていただきましてありがとうございました。「中医学の可能性について考えることで、学ぶ面白さが見えてくる」というお話もとても心に残りました。中医学の学びは、日本の新しい医療モデルの可能性を見出すことにもつながるのですね。
いかがでしたでしょうか。兵頭先生はユーモアを交えたお話上手な先生としても有名です。すらすらと読めてわかりやすい本書の文章からは、先生のお人柄も感じとれます。以前の弊社の取材に「中医学の理論はシンプルかつシステマティックであり、そのため西洋医の理解を得やすい」と語られました。中医学を誰でも理解できるようにとわかりやすく整理・解説された本書は、この先の東洋医学をベースにした医療連携の礎となることでしょう!
中医学の仕組みがわかる基礎講義
著者:兵頭 明