第18回公益社団法人日本鍼灸師会全国大会 in 近畿レポート
10月21日、22日の2日間にわたり、スターゲイトホテル関西エアポート(大阪府)にて、第18回公益社団法人日本鍼灸師会全国大会in近畿が開催された。「わが街、はり・きゅうのある暮らし~バック・トゥ・ザ・鍼灸~」を大会テーマに掲げ、全国各地から321人の参加者が集まった。また一般の来場者が鍼灸に触れる機会として、もぐさ作り、お灸体験といった展示ブースや、金魚すくいや型抜きなどの縁日が催されるなど賑わいに溢れた内容となった。
(写真提供:日本鍼灸師会事務局)
公開シンポジウム「鍼灸(東洋医学)が根付く街」にて、南出賢一氏(大阪府泉大津市長)と、米倉まな氏(はりきゅう処ここちめいど院長)の二人のシンポジストがマイクを握り、南出氏は食育の推進や健康リテラシーを高めることを目的に官民連携した学びの場の提供、一人ひとりの健康状態を見える化するといった泉大津市健康づくり条例を制定し、施行したこと、また足元から健康寿命延伸を目的とした「あしゆび市民モニター事業」について取り上げた。米倉氏は、「街の開業鍼灸師が担う地域との繋がり~市民と共に創る鍼灸が根付いた街~」と題して、来院する患者は本人も気付いていない場合が多いストレス因子があり、慢性的な痛みやめまいなどの身体症状から抑うつやパニック発作などの一連の流れを解説。民間企業、国・地方公共団体による精神障がい者雇用率の報告などを行った。
専門講座1「鍼灸師としての防災と復興支援 -困難な被害状況を乗り越える鍼灸師の活動と備え」では、牧紀男氏(京都大学防災研究所 社会防災研究部門 都市防災計画研究分野 教授)が 鍼灸師として、業務を守ることも防災の目標であり、その対策は業務継続計画や業務継続マネジメントと呼ばれ、治療院再開までの目標復旧時間を決めて対策を講じると展開。続けて、「災害と鍼灸~私の町に災害がやってきた~」を担当した日比泰広氏(特定非営利活動法人鍼灸地域支援ネット理事長)は、(公社)京都府鍼灸師会と(公社)京都府鍼灸マッサージ師会が連携して災害時に被災した鍼灸師が継続して業務を行えることを目的に実施した災害鍼灸マッサージコーディネート研修会や災害対策本部設営研修によって組織的な支援活動ができたことについて振り返った。
専門講座2では、武田充史氏(養徳鍼灸院院長)による実技供覧「耳介療法による疼痛ケア」が組まれ、フランス人医師ポール・ノジェにより築き上げられた歴史から、リチャード・C・ニムゾフが発展させたBFAの手順をスライド上で共有。さらに、粒鍼、鍉鍼、毫鍼、温灸器を用いた耳介療法による鎮痛方法の実際や症例を紹介した。聴講者は爪楊枝を使い、耳鍼鎮痛法の体験を行った。
初日の全プログラム終了後には、同会場内にて懇親会が盛大に執り行われた。
2日目に入ると、専門講座3「整形外科からみた鍼灸―八体質医学の紹介―」が開かれ、市橋研一氏(医療法人大智会市橋クリニック理事長)は、セルフメディケーションによる薬に頼らない社会の実現に向けて次世代の食医の活躍が期待されるとして、食事療法と鍼治療を一体化した八体質医学について概説した。
続く専門講座4は、「西洋医学と鍼灸医学の融合~小児診療の新しい展望~」を児玉和彦氏(医療法人明雅会こだま小児科理事長)が、「医療連携と小児はりの可能性」を油谷真空氏((一社)北辰会、風胤堂院長)がそれぞれ演説した。児玉氏は、自身の鍼灸との出会いから語り、西洋医学の観点から風邪のなかに潜む致死的疾患を見逃さない診療のコツ、風邪は治るのか、治せるのか、治療の際に知っておきたいこと、さらに小児における医療連携の今後について触れると、西洋医学が優先されるべきよくある疾患(common disease)として、川崎病、溶連菌、肺炎や尿路感染症を列挙した。油谷氏は、1968年に発見された劉勝の墓に埋葬されていた鍼のレプリカから復元した古代鍼®について解説。弁証論治して選穴し、接触や翳して臨床に於いて研究し、現在では小児の鍼や敏感な体質の患者に応用していると発表。さらに、小児ごとの病因病理を踏まえたうえで予後を判断した治療を行う必要性を説き、その予後となる診断点や治療について実技を披露した。
専門講座5では「令和時代の儲かる経営術&儲かる働き方・自分の評価をあげる方法」について、経営コンサルタントの加納光氏(商売繁盛研究所 集客・業績向上アドバイザー)がマーケティング、マネジメント、メンタリングの3つをテーマに教鞭と執った。メンタリングとは、部下育成のノウハウという意味で、ハラスメントが世界基準となっているこの時代に、部下が育ってしまう状態を作ることがメンタリングの基本として、そのポイントを教示した。
本大会のフィナーレを飾る公開講座「奇跡のすぐそばにいること―地域に根差す医療とは―」では、産科医療の現場を描いた漫画で、ドラマにもなり話題となった作品『コウノドリ』の主人公のモデルとなった荻田和秀氏(泉州広域母子医療センターセンター長兼りんくう統合医療センター産婦人科部長)が登壇。漫画『コウノドリ』のカラーのコマ割りページをスライド上に映し、ドラマ制作にかかわった経緯から、妊婦の交通事故について、妊婦が何らかの外傷に遭遇する確率は6~7%、妊婦が重症の場合の胎児死亡率15~40%、軽症であっても1~4%の胎児死亡率があると伝え、その危険性を示唆した。
その他、ランチョンセミナー「鍼灸による未病養生の可能性を考える」を題材に戸村多郎氏(関西医療大学大学院 保険医療学研究科 保険医療学専攻 准教授)が講義を行った。鍼灸の予防に関する研究はあまり進展していない現状から症状への対処のみではなく、未病養生のスペシャリストとして役割を担うことが求められると指摘。その予防領域に入るため、治療のみに着眼点を置いたエキスパートを目指す限定領域に対して、予防は鍼灸治療を行うことを前提に、東洋医学に詳しいなどの専門性を高め、多領域にシフトしていくことを提示した。
講演以外に、経穴から要穴の順に読み、該当の札を取り合う個人・学生対抗の要穴カルタ大会が開催され、優勝者ら上位3位までに賞状、メダルやトロフィーの授与が行われた。また、5Fホワイエにて、企業による鍼やもぐさなどの鍼灸用具の展示販売会に加え、今大会を彩る縁日、小児はり体験、避難生活体験や、泉州南広域消防本部の協力による災害を想定した救命講習が催された。