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第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会神戸大会レポート【前編】

公開日:2023年7月25日

 第72回(公社)全日本鍼灸学会学術大会神戸大会が、6月9~11日、神戸国際会議場にて開催され、3日間で来場者数延べ約1,600人、登録者数約1,700人(アーカイブ視聴含む)が全国各地から集まった。9日は理事会、顧問参与会議、鍼灸学術団体協議会並びに諮問委員会が行われた。本記事では前編として10日に行われたプログラムをレポートする。

 6月10日開会式にて、はじめに本学会近畿支部長で今大会の実行委員長である坂口俊二氏は、鍼灸は経験の医術であり、これを経験で終わらせるのではなくエビデンスとしてしっかり構築していくことが本学会の役目と述べた。次に、宝塚医療大学保健医療学部鍼灸学科特別教授で、大会会頭の北小路博司氏が挨拶を行い、実技セッションは、20分ほど根拠となるデータを示したうえで、それに基づく鍼灸技術、まさに学と術が相まって良いセッションに仕上げていただき、参加者にとって明日からの臨床の新しい方法や気付きに寄与できると呼びかけた。本学会会長の若山育郎氏は、今大会のテーマ「鍼灸学の次代展望-経験から学び、持続可能なエビデンスをつむぐ-」について、「つむぐ」は細い繊維をよって糸にし、その糸を織って織物をつくる意味から、臨床においては、所見をつむぎ、治療方針を立てることや、研究において実験結果をつむいで成果を導き出すという共通項があり、適正なテーマであると語った。最後に、来賓を代表して(公社)日本鍼灸師会会長の要信義氏が祝辞を述べた。

「年に一度成果を発表する場が学術大会ですので、ぜひとも活発な発表と聴講、熱いディスカッションをお願いします」と、若山氏

「年に一度成果を発表する場が学術大会ですので、ぜひとも活発な発表と聴講、熱いディスカッションをお願いします」と、若山氏

「鍼灸の医術は、名人芸ではなく、誰しも同じようにすれば、このような結果を残せるということを示していきたい」と話す坂口氏

来賓で駆けつけた(公社)日本鍼灸師会会長の要氏。世界中で物資の調達に問題があることから原価が高騰し、蓬はたくさんあるが取る人が不足しているという状況に、業界を盛り上げていくため、鍼や灸、パルスなどの鍼灸用具も見据えて力添えをしていきたいと伝えた

大会会頭講演「持続的なエビデンスをつむぐ -排尿障害に対する鍼灸治療-」

北小路 博司
宝塚医療大学 保健医療学部 鍼灸学科

 病態モデルを用いた基礎研究、過活動膀胱を対象とした鍼灸の臨床研究を発表。過活動膀胱には、中髎穴への鍼と中極穴への灸によって膀胱容量の増大、膀胱コンプライアンスを高めて膀胱収縮(Non-voiding contractions)を抑制する。これにより頻尿(夜間頻尿)、尿意切迫を改善することが示唆されるとし、排尿障害に対する鍼灸治療の有用性について説いた。

北小路氏は、中髎穴への刺鍼について、45度で刺入し、仙骨後面まで到達させると、図を用いて分かりやすく示した

基調講演1「未病スコアの開発と今後の応用 -未病知が鍼灸を持続可能にする-」

戸村 多郎
関西医療大学大学院 保健医療学研究科
関西医療大学 保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科
和歌山県立医科大学 医学部 衛生学教室

 大会テーマに沿って、未病スコア開発の経緯や日本の健康の未来にどう役立つのかを伝えるとして教鞭を執った。「未病」という用語の使用された年表を用いて閣議決定に使われていることからはじまり、未病とは予防医学では重要な概念ではあるが健康の範疇にあるため保険の適用はなく、健康に医療は届きにくいといった現状を報告した。

日本の医療費が42兆9,665億円にまでのぼることから、他の重要な政策が後退すると指摘した戸村氏

パネルディスカッション「災害を学び・災害に備える」

  • 「地震予知研究の最前線と死なないために出来る事」
    長尾 年恭
    静岡県立大学 グローバル地域センター 自然災害研究部門
    東海大学 海洋研究所 地震予知・火山津波研究部門
    認定NPO法人 富士山測候所を活用する会
  • 「災害鍼灸マッサージプロジェクトの活動ガイドライン -現場から立ち上がった指針-」
    三輪 正敬
    災害鍼灸マッサージプロジェクト
    東京都立大学 人文科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学分野

  • 「災害鍼灸のエビデンス -災害支援に鍼灸を利活用するために-」
    小野 直哉
    日本災害鍼灸マッサージ連絡協議会(JLCDAM)
    (公財)未来工学研究所
    明治国際医療大学

  • 「AMDAにおける災害鍼灸活動の実践例から 課題に関する考察」
    今井 賢治
    認定特定非営利活動法人アムダ 災害鍼灸ネットワーク 代表世話人
    帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科

  • 「鍼灸マッサージ業団による災害支援活動の 経緯とDSAMの成り立ち」
    矢津田善仁
    公益社団法人日本鍼灸師会 危機管理委員会
    公益社団法人福岡県鍼灸マッサージ師会

  • 「災害支援者支援における鍼灸マッサージ施術の有用性」
    仲嶋 隆史
    公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会 スポーツ災害対策委員会
    災害支援鍼灸マッサージ合同委員会 DSAM

灸療法の現状と安全性に関する日韓シンポジウム

 国際部主催のもと、灸の歴史やその用具の安全性について、日本と韓国を代表して4つの演題が行われた。

  • The history and current status of Japanese Moxibustion(日本の灸の歴史と現状について)
    形井 秀一
    Doho Park Acu-Moxa Clinic, Moxibustion Standardization Committee in JLOM
    Tsukuba International Acu-Moxa Institute(TIAMI)
  • Utilization of moxibustion in Korean healthcare: evidence from real-world data (韓国のヘルスケアにおける灸療法の利用について: リアルワールドデータからのエビデンス)
    Yeseul Lee
    Jaseng Spine and Joint Research Institute, Jaseng Medical Foundation
  • Standardization of Moxibustion Device: Safety, Performance and Quality tests. (灸道具の標準化:安全性・性能及び品質の検査)
    KWON, O Sang
    Department of Korean Medicine, Wonkwang Univ. Iksan, Korea

灸の仕組みをイラストで紹介し、灸の使用によるアレルギー反応、火傷、感染症などの様々な有害事象を防止すべく、臨床家の利便性を向上させる製品の開発が行われてきたことに触れたKWON, O Sang氏

  • The safety of smoke from direct and indirect moxibustion in Japan (日本における直接灸と間接灸の煙の安全性について)
    Matsumoto Takeshi
    Kashiwanoha Acupuncture Clinic, Chiba University Hospital

シンポジウム1「灸研究はどこまで進んだか」

  • 「電子灸(N灸)による免疫効果の検討」
    中村 辰三
    宝塚医療大学 保健医療学部 鍼灸学科
  • 「臨床からみた灸の効果」
    吉川 信
    学校法人花田学園日本鍼灸理療専門学校附属鍼灸院
    一般財団法人 東洋医学研究所
  • 「動物モデルを使用した灸に関する基礎研究について」
    松熊 秀明
    森ノ宮医療大学 医療技術学部 鍼灸学科

認定鍼灸師制度説明会

福田 文彦
明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 特任教授
明治東洋医学院専門学校 鍼灸学科 学科長

 国民が安心して鍼灸治療を受けられるにはどうすればいいのかを議題に、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師などの広告に関する検討会での内容を報告した。

意見が賛否に分かれた事項について、医療広告並びにこれらに密接に関連する制度と照らしながら、総合的かつ継続定期に検討していくこと、広告の適正化の状況を見ながら、おおむね5年後を目処にガイドラインの成果、問題点などを検証すること。その検証結果を踏まえ、所要の措置を検討するなどの課題が挙がったことを共有した

基調講演2「デザインが研究の質を決定する」

福原 俊一
京都大学 大学院 医学研究科 特任教授

 iPhoneとガラケーを引き合いに、Docomoのiモードのように「技を極める」のではなく、スティーブジョブズが目指した「顧客の困りごとを解決する」という概念が時代を席巻してきた過去を振り返り、これを教訓として技に走りすぎて、本質を見失わないこと。良いリサーチクエスチョンとは、困っていることが何かを考え抜き、解決への実施可能性を模索すること。これは実際に医療の現場にいる人にしか考えることができないと展開した。

リサーチクエスチョンは現場にいる医療者しか考えることができない。人工知能にはできないと語る福原氏

シンポジウム2「再生医学と鍼灸」

  • 「末梢神経の再生促進と鍼通電」
    井上 基浩
    宝塚医療大学 保健医療学部 鍼灸学科
    同志社大学 スポーツ傷害予防研究センター・超音波応用科学研究センター
  • 「骨癒合に対する鍼通電刺激の有効性について」
    中島 美和
    ドクトル鍼灸医学研究所 京都四条からすま鍼灸院
    同志社大学 スポーツ傷害予防研究センター・超音波応用科学研究センター
  • 「腱癒合の促進と鍼通電刺激」
    大井 優紀
    宝塚医療大学 保健医療学部 鍼灸学科
  • 「骨格筋の再生過程における鍼通電刺激の有効性」
    池宗 佐知子
    帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科
  • 「鍼灸治療の有効性から血管新生に注目した展開」
    今井 賢治
    帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科

特別講演1「韓医学におけるパーキンソン病に対する鍼灸臨床研究の最前線」

Cho Ki-Ho
慶煕大学 韓医学部 第二内科学教室

韓国では、鍼灸治療はパーキンソン病の補完的な治療法として注目され、陽陵泉への鍼刺激により、ドーパミン神経細胞の保護作用がみられたこと、また運動機能の改善など、パーキンソン病に対する鍼灸による効果が臨床研究によりみられたことを発表した

日本アスレティックトレーニング学会共催シンポジウム(スポーツ鍼灸委員会主催)
「スポーツ外傷・障害に関する提言とAT・鍼灸師によるアプローチ」

  • 「傷害調査の概要および傷害調査結果の報告」
    眞下 苑子
    大阪電気通信大学 共通教育機構 人間科学教育研究センター 准教授
  • 「傷害調査に基づいたスポーツ現場における取り組み」
    平松 勇輝
    医療法人 天野整形外科
    阪南大学サッカー部

サッカーにおけるスポーツ傷害調査として、練習および試合を1,000時間行った際に発生した傷害件数を縦軸に、順位、勝利数、得点数を横軸に表したグラフから可視化し、すべてが高い数字をマークした。この結果から負傷が少ないチームは成績が上位に位置することを示し、好成績のためには傷害を減らす予防と、そのための調査の重要性を強調した

  • 「トリガーポイントを活用した腰痛症状に対する鍼灸治療」
    北川 洋志
    関西医療大学 保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科
  • 「スポーツ傷害に対する鍼灸治療とコンディショングへの応用」
    吉田 行宏
    明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科

 この他、一般口演13題、実技セミナー4題、業者によるランチョンセミナー4題、イブニングセミナー、学生発表や高木賞表彰式が執り行われた。

実技セミナー2「国際頭痛分類に基づく頭痛に対する鍼灸治療の実際」にて登壇した山口智氏(埼玉医科大学東洋医学科)。片頭痛の鍼灸治療部位について、側頭筋部の頷厭(GB4)、懸顱(GB5)、懸釐(GB6)、頭維(ST8)、下関(ST7)、頬車(ST6)をスライドにて供覧した

また、10日の全プログラムが終了後、隣接する神戸ポートピアホテルにて懇親会が開かれた。

続く後編となる6月11日のレポートは、近日公開予定。

尚、大会の様子はアーカイブ配信より視聴可能となっている。

※開会式、一般口演発表、ランチョンセミナーなど一部を除く

【配信期間】2023年6月26日(月)0:00~7月31日(月)23:59

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