今年こそ古典を知り広げる!「臨床に生かす 古典の学び方(上) 」の著者池田政一先生へインタビューしました!新春インタビュー企画 第1弾!
あけましておめでとうございます。
皆様におかれましてはつつがなく新しい年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
本年が皆様とって明るい希望に満ちた年となりますように心からお祈り申し上げます。
さて、昔から一年の計は元旦にありといいます。
これは「計画は早めにしっかりとたてるべきである」ということわざですが、それぞれに「今年こそは○○する!」と新たな目標を立て始めたところではないでしょうか。
治療家の先生方、学生の皆様の中には、『今年こそ、古典を理解して臨床に取り入れる!』『苦手だった古典を身近なものに!』と決心した方も多いと思います。
そこで!新春インタビュー企画の第一弾は、多くの皆様からのご要望にお応えして、「臨床に活かす 古典の学び方(上) 素問・霊枢・難経から」の著者の池田政一先生に、
・古典を学ぶ事の重要性とは
・古典を臨床に生かすとは
・古典治療、経絡治療に没頭されたきっかけ
など、インタビューしました!
書籍『臨床に活かす 古典の学び方(上) 素問・霊枢・難経から』について
経絡治療学会機関誌『経絡治療』に連載したものを大幅に加筆訂正。陰陽理論、五行学説など東洋医学の基礎理論について古典を引用しながら系統立って明解にときほぐし、理解しやすいように解説しています。臨床に役立つ古典の手引書であると同時に、素問、霊枢、難経などの古典をこれから学ぶ方にも最適の良書として、1993年8月の出版以来のロングセラーのおすすめ書籍です!
池田政一先生のご紹介
1945年、愛媛県生まれ。1968年、明治鍼灸専門学校卒業。鍼灸は池田太喜男師に、漢方薬は荒木性次師に師事。鍼灸と漢方薬の理論と臨床の一致をライフワークとして研究を続け、国内外で講演活動を続けるとともに、多くの内弟子を育ててきた。元経絡治療学会理事・学術部長、経絡治療学会愛媛部会長、漢方鍼医会顧問、漢方陰陽会会長。漢方薬専門店を併設した鍼灸治療院「池田小泉治療院」(愛媛県今治市小泉)院長。
『図解鍼灸医学入門』『古典ハンドブックシリーズ(全五巻)』『伝統鍼灸治療法』『蔵珍要篇』『古典の学び方』『漫画ハリ入門』『経穴主治症総覧』『漢方主治症総覧』『臨床に生かす古典の学び方(上)』(以上、医道の日本社)など著書多数。
池田政一先生にインタビューしました!
――ズバリ!古典を学ぶ事の重要性はどのようなところにありますか?
池田 鍼灸治療は鍼または灸によって治療する方法ですから、現代医学の病名等で治療することは竹に木を繋ぐようなもので、十分な効果が期待できません。
鍼または灸の効果を最大限に引き出すためには古典に記されている診断や治療方法を用いるのは当然のことと考えています。鍼灸師は血液検査や画像診断ができるわけではありませんからね。
もちろん、現代医学の知識が必要ない、ということではありません。現代内科学大系全60巻を買って読みましたが、結局は各診断結果を読み取ることに重点があるために、血液検査や画像診断の知識がないと理解できませんでした。
そこで読んだのが看護学生が勉強する教科書です。これは病症を中心に大まかに病名を推測するように書かれているために非常に参考になりました。
この知識に古典の診断方法を駆使すれば重大な疾患を見逃すことなく患者を専門医に紹介することができます。臨床経験55年ほどになりますが、多くの患者を専門医に紹介しました。すべて生命にかかわる疾患でした。
心筋梗塞、大動脈解離、急性膵炎、胆道閉塞症、脳梗塞、脳出血、低血糖症など。すべてすぐに知り合いの内科医に連れて行き、そこから大きな病院に救急車で運んだものです。
――池田先生は経絡治療の第一人者でいらっしゃいますが、他の治療法を試してみようとお考えになった事はございますか?
池田 経絡治療の第一人者と言われるのには少し抵抗があります。というのは、経絡治療は極めてシンプルな治療法だと誤解されているためです。 経絡治療が経絡の病変を捉えて治療する方法だということであれば私は経絡治療家だと言って良いでしょう。
経絡の病変を四診法によって捉えて治療しようと思えば、鍼でいえば寸3から3寸くらいまでの鍼を使い分ける必要があります。鍼の太さでいえば0番から30番くらいの鍼を使い分けます。
もちろん三稜鍼を用いた瘀血処置も多用するし、吸角治療も行います。ただし、電気器具は用いません。灸は透熱灸、隔物灸、知熱灸なども多用します。
要するに治すためなら何でもやります。
なお診断については古典の四診法つまり望診、腹診、脈診などが中心ですが、血圧計や酸素濃度測定器、体温計も常備していて適当に使います。
――古典を紐解いた先に経絡治療(古典治療、漢方医術)があったのでしょうか。
池田 少し話が長くなります。
私は21歳の時に鍼灸学校に入りました。その前は小説を書きたいと思っていたのです。しかし、才能がないと思って悩んでいるときに、鍼灸学校の新聞広告が眼に留まりました。
そういえば2人の兄も鍼灸をやっているが、私も鍼灸の免許を取って、それで生活しながら小説を書こうかと安易に考えて明治鍼灸専門学校の夜間部に入りました。
夜間部に入ったのは、それまでの道楽が祟って親兄弟の援助を受けられなかったためです。兄2人は大きな鍼灸治療院を建てて1日120人くらいの患者を診ていましたから経済的にはゆとりがあったはずですが、意地でも兄の援助は受けないと思ったものです。
鍼灸学校の一年生の夏休みに、経絡治療学会の夏期大学の帰りに、長兄が大阪の私の下宿に訪ねてきました。そうして、いきなり脈を診せろと。脈を診た兄は、お前は下痢をしているではないか、と言うのです。確かに下痢していたのです。そうして脾経を撮診されましたが、すごく痛い。兄は三陰交に透熱灸をやれといって帰って行きました。
これはどうしたことか。一本の血管を三カ所に分けて脈を診て下痢が分かる。現代医学的に考えると荒唐無稽な方法です。しかし、脈を診て病気が分かるという事実には勝てません。
それから脈診に夢中になりました。兄が土産だと置いていった柳谷素霊先生の『鍼灸医術の門』(医道の日本社刊)と、学校の教科書である漢方概論(森秀太郎+清水千里著)をむさぼるように読んだものです。
二学期が始まると待ち構えたようにしてクラスの人たちの脈を見て回った。兄のように病気を言い当てることはできませんでしたが、半年もするともう脈診の名人のような気分になり、2年生になると柳谷先生の著書(前掲)を参考にして治療も始めました。クラスメートはもちろんのこと、下宿の近所の人たちの治療もやったものです。
同時に漢方薬の勉強も始めました。東洋医学あるいは古典医学というのは鍼灸・導引・漢方薬などで治療する方法です。後で分かったことですが、鍼灸と漢方薬は別の学問だと言われていたのです。
しかし、そんなことないと鍼灸と漢方薬の理論と臨床の一致を一生の研究テーマとしました。そのために薬の販売の資格(現・登録販売者)を取りました。それで現在に至っていますが、その目的はほぼ達せられたと自負しています。
なお兄が見つけた下痢は三陰交の透熱灸で治りました。鍼灸学校の一年生で透熱灸ができるのかと思う人がいるかもしれません。私の育ったところは瀬戸内海の島(現在は今治市)で、むかしから灸が盛んなところでした。そのために子供の頃から身柱に透熱灸をされたりしたものです。
身柱の取穴は祖母がやりました。祖母は自分で肩を切って吸角を当てて血を抜くような人でした。薬を飲むときはすべて薬草でした。それで99歳まで元気でした。母方の曾祖父が鍼灸師だったので、交流があったのだと思います。何しろ狭い島のことですから。
それにしても、足に灸をして下痢が治るというのも、私を古典治療に没頭させた理由の1つです。
経絡治療学会とは40歳まで関わりがありませんでした。 古典ハンドブックシリーズ(医道の日本社刊)の出版記念パーティーを40歳の時に弟子達が開いてくれました。
そのときは医道の日本社の初代会長の戸部宗七郎先生や岡部素明先生が来てくださいました。そのときハンドブックが「馬鹿売れ」(素明氏)しているというので、経絡治療学会誌に何か書け、と言われたのが経絡治療学会とかかわった最初です。それで「古典の学び方」と題して連載させて頂きました。後に加筆して医道の日本社から出版して頂いたのが「臨床に活かす 古典の学び方(上)」です。
その後、43歳の時に長兄が亡くなったために、兄の代わりに出てこいと言われて経絡治療学会夏期大学に出かけることになりました。そうして後年、岡部素明先生の指導によって経絡治療学会の教科書ともいうべき『日本鍼灸医学・経絡治療基礎編・臨床編』を書かせて頂きました。
――膨大な量の古典を学ぶ事に何度も挫折をしています。「臨床に生かす古典の学び方(上) 」でまとめて頂き大変ありがたいです。古典を理解すると、その後の治療にどのような影響があるとお考えになりますか?
池田 すでに述べたように私は最初から古典に関わりがありました。ただし、当時は素問、霊枢、難経、傷寒論、金匱要略、神農本草経などの古典書物の原文が手に入りにくかったのです。
しかし、鍼灸学校を卒業して兄の治療院を手伝うようになって、兄の書棚から素問、霊枢など引っ張り出して書き写したり読んだりしたものです。
他の勉強は特別には修めていませんからなんとも言えませんが、古典を勉強すれば視野が広がると思います。古典書物は中国の歴史やユングの心理学とも関連してきますから。
――現代では様々な鍼灸の治療方法がありますが、古典を改めて学習することは、経絡治療以外の治療法を取り入れている治療家にとっても、有効であると思いますが、池田先生はいかがお考えですか?
池田 先に述べたように、私はいろいろな治療法を用います。 わかりやすく言えば長柄鍼を使った接触鍼もやりますし、長い中国鍼を刺すこともあります。古典書物には◎◎式とか××流というのはないのです。すべて包括されています。
何度も言いますが、患者を治すためには何でもやるのです。1つの方式にこだわるのは駄目です。
ただし、初心者は、自分と相性の合う先生のところに弟子入りして勉強し、そののち古典を勉強して治療方法を広げていくのがよいと思います。
――古典を読み解くには、相当の根気と学習意欲を要するように思います。学ばなければと思いつつも、なかなか進まないという方は多いと思います。その中で、池田先生がどのように古典を読み解いていかれたかを知りたいです。必要に迫られて、魅力的だったから、面白かった、逆にとっても苦労されたこと、などお聞かせいただけますでしょうか。
池田 私の場合は根気とか意欲とかは関係なかった。何しろ放蕩者が生きていく道を見つけた喜びが大きかったですからね。
先ず古典書物の原文を書き写すことから始めました。いまごろは原文がすぐに手に入るから良いですね。
書き写したのは『素問』、『霊枢』、『難経』、『傷寒論』、『金匱要略』、『神農本草経』です。
原文を書き写したら読んでいきます。分からない漢字は大漢和辞典などで調べます。そうして、書き写した条文の冒頭に、これは陰陽について書いているなどと見出しを入れていきました。
私は漢文は好きでしたから、さほど苦労だとは思いませんでした。しかし、何も興味がなく書き写すのは苦痛でしょう。私の場合は経絡治療で肝虚とか脾虚とかいうけど、肝とは何か、虚とは何か、なぜ大腸虚がないのか。そういうことを古典書物の中から抜き出していきました。
項目を列記すると肝胆、心小腸、脾胃、肺大腸、腎膀胱、心包、三焦、虚、実、陰、陽、気、血、津液。陽虚、陽実、隠虚、陰実などです。
これらを整理していくうちに、新たな疑問も出てくるし、分からなかったことが理解できたりして楽しかったことを覚えています。
なお前記した古典書物の原文を書き写すのは、仕事をしながらでも2年もすれば終わります。『難経』は1週間で書き写せます。『傷寒論』は10回ほど書き写しました。
――池田先生が古典の中で特に気に入っている項目や、印象的な部分はありますか?
池田 いろいろありますが、『難経』の記述を紹介しましょう。
「三十三の難に曰く、肝は青く木に象る。肺は白く金に象る。肝は水を得て沈み、木は水を得て浮かぶ、肺は水を得て浮かび、金は水を得て沈む、その意は何ぞや」
これに対する難経の回答は省略しますが、これは肝と肺には陰気と陽気がある、と言いたかったようです。
肝は血を貯蔵していて春に発生(中医学では疏泄作用)する作用があるが、厥陰肝経は酸味で補われる収斂作用がある。それによって肝血を多くする。
肺は気を蔵していて秋に収斂(中医学で粛降作用)する作用があるが、太陰肺経は辛味で補われる発散作用がある。それによって外邪から身を守っている。
以上が回答です。このことは難経には具体的には書かれていませんが、『素問』や『霊枢』の記述を参考にすれば、このように理解できるわけです。
ということは、臓の働きと経絡の働きは逆だということ。臓も経絡も同じだとすると矛盾が生じます。だから中医学では臓腑弁証を主とし、経絡治療では経絡を主にしたわけです。
このことに気がついたのは私が最初だと思います。先人が気づかなかったことが分かった時は快感ですね。これが古典を勉強していて楽しいと思えることの第一です。そのほかにもありますが、省略します。
――逆に難しかったところや、池田先生でも苦手と感じた部分はございますか?
池田 古典を読んでいて意味の分からないところは多くあります。しかし、これは臨床経験がないためです。
古典書物は発病から死に至るまでのことが書かれています。ですから全部を理解するのは無理です。55年も勉強していても無理なのです。
だから分からないところは、そのままにしておきます。そのうち臨床を通じて理解できることでしょう。
ただ言えることは、先に挙げた古典書物を整合性のある理論で統一することが大切です。そうすれば中医学も経絡治療も◎◎流も××派もすべて包括できるのです。
――古典を学習するポイントや、「臨床に生かす古典の学び方(上) 」の活用法のアドバイスなどありましたら教えてください。
池田 古典の整合性のある理論を知って診断、治療することが大切です。なぜなら、治療して効果がなかったとき、何を考え違いしていたか分かるからです。
最初は何のことが分からなくても、読んで原文に当たって、また解説を読んでいけば、それなりに分かることがあります。1度に理解するのは無理かもしれません。それと臨床を通じて理解するようにしてください。
――最後に、今年こそ古典を詳しく学ぼうと決意した学生や治療家に向けて、激励のお言葉をぜひお願いします!
池田 人間は人生においてただ1つのことをやり遂げればよいのです。
それが鍼灸だというのであれば古典書物はもちろんのこと、その後に出た金元李朱医学の書物、宋代の書物、明清時代の書物、日本の江戸期の書物、明治以降の書物等々、すべてに目を通し、治療に万全を期するべきです。たかだか数百冊の書物ですから暇なときに読めばよいのです。
鍼灸師は名利に走ってはいけません。私は、そのような人とのお付き合いは遠慮いたします。
たとえば私は経絡治療家ではない代田文誌氏、木下晴都氏などの書物も読んでいます。 とにかく勉強することです。
もし開業して患者が少なくても嘆く必要はありません。1つの事に邁進していれば必ず天が助けてくれます。私は貯金がありません。自転車操業というかその日暮らしです。しかし、必要なお金は集まってきます。すべて天の助けだと思っています。
たとえば野球のイチロー氏が今日のようになるのには、それなりの努力をしたはずです。もちろん遊んで良いのです。お酒が好きなら飲めばよいのです。恋もしましょう。そうして勉強もするのです。
1度私の治療院に見学に来たらどうですか。見学は自由です。もちろんお金を請求したりしません。また治療を希望した場合は同業者として安くしています。
――お忙しい中、古典に関するご教示やアドバイス、激励のお言葉をありがとうございました。治療院の見学も大勢の先生方、学生の方にとってありがたいお話で感謝申し上げます!
いかがでしたでしょうか。池田政一先生は、これまで多くの講演や講習会で講師もされていたので、実際に池田先生から学ばれた鍼灸師の方も多いことと思いますが、今回のインタビューでは、改めて、池田先生が鍼灸の道に進まれた経緯、古典の重要性と治療へのつながりなど、深いお話をお伺いすることができました。多くの治療家が、尊敬する師としてその名をあげる池田先生の「人間は人生においてただ1つのことをやり遂げればよい」との言葉は、新年の決意を実現するための道を照らす光のように感じます。皆様にとって更なる飛躍の年になりますように、お祈り申し上げます。
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