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第52回日本伝統鍼灸学会学術大会 ―東京大会―レポート

公開日:2024年12月18日

 10月26日、27日、タワーホール船堀にて、第52回日本伝統鍼灸学会学術大会―東京大会―が開催された。大会テーマ「東洋医学の神髄に迫る ~心身一如の氣の医学~」を掲げ、今大会では、全国から約600人の参加者が集まった。

開会式

 開会式では、今大会会頭の木戸正雄氏より会頭挨拶にて、”気の医学”としての東洋医学の真髄に迫るため、各会の代表者を招いて充実した内容となったと述べると、本会会長の和辻直氏は、大会テーマについて、2年前の第50回大会のテーマ「氣と意識」を継承して、本質のひとつである氣を副題に取り上げたと主催の意図を汲み、参加者に向けて、「2日間、新しい知識と技術を学んでいただき、これからの臨床、教育と研究に活かすことができればと願っている」とした。続けて、今大会実行委員長の光澤弘氏の開会宣言によって幕を開けた。

会長講演

 会長講演は、「今後の『日本の伝統鍼灸』について」と題して、和辻直氏(日本伝統鍼灸学会会長)が、講演を行った。はじめに日本伝統鍼灸学会について、1973年経絡治療研究会と東洋はり医学会が中心となって、日本経絡学会が結成された過程から、経絡治療学会との混同が多かったことや、国際的には経絡の研究をするための学会として理解され、日本の伝統的な鍼灸学術の中心となっている唯一の学会とは理解されにくいことなどから、1996年日本伝統鍼灸学会の発足に至った経緯を語った。その後、2016年に行われたWFAS(世界鍼灸学会連合会:The World Federation of Acupuncture – Moxibustion Societies)を含めた国際的活動についても触れた。さらに、日本の鍼灸がどのようにあるべきか、現状と今後、さらに日本伝統鍼灸学会の対応について発表。和辻氏は、同日に行われた「鍼灸電子カルテ標準参照仕様の策定における現状報告」も担当した。

 日本伝統鍼灸は、中国に発祥した医学思想を基礎とし、それらを日本の風土に適するように変化させ、全人的治療を目的として、手指の触覚を中心とした診察や鍼灸治療の技術を重視した鍼灸医学となった。さらに日本伝統鍼灸の最も際立った特徴の一つに、他国の鍼灸に比べて極めて微弱な刺激の刺鍼や施灸を行うことができ、これらの施術法は効果の面だけではなく、安全性の面でも他の施術法にはない可能性を秘めている。このように日本の伝統鍼灸には日本独自に発展し続けている特徴的な医学理論や診察、治療があり、これらを今後いかに明確にしていくのかが重要と和辻氏

会頭講演

 会頭講演「東洋医学の神髄に迫る ―『黄帝内経』の治療法―」では、木戸正雄氏(天地人治療会会長)が登壇した。講演を総括して、東洋哲学における根源的な氣は、生命(心・身)を含むすべての物質を構成している物である。アンリ・ベルクソンのいう「記憶」、フリーマンの「プロセスの存在論」、福岡氏の「動的平衡」、鮎澤氏の「愛の知」などに共通する生命観は物質、エネルギー、情報のやりとりの生体秩序を創っている機能であり、東洋医学における氣に通底する。『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)は、縦系の経絡系統と横系の氣街(天地人)によるシステムを提示し、氣を意識しなくても、氣の治療ができるようにシステム化されている。臨床から読み解く必要があり、例えば、岐伯調の篇を照らし合わせてみると、『素問』水熱穴論篇による四肢の治療は、三陰三陽の領域分割になっているという経絡系統の原則と、その天地人の交点が治療穴になっていることが分かると4つのポイントを教示した。

 木戸氏は、『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)は、先人たちが遺してくれた氣の治療システムであり、これに則って臨床を行えば、氣を特段に意識しなくても、伝統的に培われた装置が働き、充分な治療効果が期待できる。つまり、氣を誰にでも扱えるシステムに昇華してくれたものが『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)であり、東洋医学の神髄は『黄帝内経』にあると提言した

特別講演

 特別講演1「統合医療への視座と新しい知」にて、鮎澤聡氏(筑波技術大学保健医療学部教授)が講師を務めた。現代鍼灸と伝統鍼灸、生体秩序の生成、伝統鍼灸の効果と生体の機能、科学に変わる「新しい知」と鍼灸手技療法・統合医療について述べるとした。まず鍼治療の中でも、鍼通電は神経学、解剖学、生理学と同じ土俵でできるため、科学技術的に理解しやすいが、一方で非物質的・氣、微弱刺激を用いること、人の関与が重要であり、自然治癒力も関連すると古典に依拠する伝統鍼灸は理解しにくいものに分類される。ここで両者を統合していくために、従来の科学的な理解のみではなく、科学に変わる概念、新しい知を導入することが求められていると説いた。

 科学における知は、対象を疑うことからはじまる「疑う知」であることに対して、今必要とされる関わり合いや共感を通した生成的な営みを包含できる新しい知を「愛の知」と称した鮎澤氏

 特別講演2「東洋医学と代謝疾患」では、林洋氏(東京有明医療大学学長)を演者に迎えた。林氏は、東洋医学では、黄帝内経の記載から鍼灸治療の目的は気の調整であることに対して、それを西洋医学では、ホメオスターシス(生体恒常性)に相当すると位置付け、脂質代謝のホメオスターシスとその破綻をテーマとして、アルコール性高脂血症、高齢者の体力低下、脂質と食欲、動脈硬化の4つをトピックに自身のこれまでの実験的な研究の一端を呈示するとした。冒頭で、脂質とは何のために身体に存在するのか。これは副腎皮質ホルモン、男性・女性ホルモンの原料であり、欠くべからざる物質である。中性脂肪も、脂肪組織の主成分であり、外からの圧力や衝撃を吸収する緩衝材、さらに外気温が低くなった時に直接体内に伝わらない断熱材の役割を果たし、且つ有効なエネルギーの貯蔵をしてくれる働きを持つため必要不可欠であると伝えた。

 コレステロールや中性脂肪が血液中に多くなりすぎると、粥状動脈硬化を引き起こし、これが日本人の死亡原因上位の心筋梗塞、脳梗塞になると解説した林氏

 特別講演3「日中伝統鍼灸の異と同 〜気・自然治癒力・精神性をめぐって」をタイトルに、松田博公氏(日本伝統鍼灸学会顧問)が講演を行った。日本鍼灸は中国的要素と日本的要素の二つの中心を持つ楕円構造であることを図で示し、中国鍼灸は中国的要素という一つの中心の同心円構造とは大きく異なると要説。その両要素がどのように関係しているかを視ることで伝統鍼灸各派の固有性が分かり、要素の異と同を明瞭に知ることで日本鍼灸の特徴が浮き彫りになると伝えた。気(中国の気と日本の気は違う)、自然治癒力思想(中国は邪正闘争、日本は邪正一如)、スピリチュアリティ(日本は無心、中国は法則天地)の3つを題材に講演を行った。

 冒頭にて「鍼灸学はまだ学として組織されず、体系なきはまさしく鍼灸人の怠慢である」という柳谷素霊の寄語から80年余り、未だに日本鍼灸学は存在していないことを提起し、自身の理論を述べるとした松田氏

 特別講演4「世界に広がる深谷灸」では、スペインのバルセロナよりフェリップ・カウデット氏(フェリップ・カウデット治療院)が来日。自身の経歴から、灸に対する考え方、日本式灸法との素晴らしい出会いや恩師たちについて語った。鍼と灸の評価されるレベルは同等ではなく、鍼が評価されている。灸が弟分のような扱いをされていることに関して、鍼と灸は同等のレベルで効き、同レベルで評価されるべきであると主張し、それを世界に広めることがミッションと語った。

 日本や本国スペイン以外に、オーストラリア、デンマーク、ドイツ、オーストリア、ポルトガル、イタリア、フランス、オランダ、ブラジル、ベルギーなど100回以上のセミナーを開いてきたフェリップ氏。参加者は1,500人以上にのぼり、普及活動を行ってきた。世界で最も普及している灸は棒灸だが、打膿灸を受けたことがない人は、ぜひ受けてほしいと推奨した

教育講演

 教育講演1「女性疾患と東洋医学」の講演でマイクを握った水野鳳子氏(鶯谷健診センター婦人科)。女性疾患のうち、PMS/PMDD、子宮筋腫、更年期障害、子宮内膜症について、木戸氏の天地人治療も参照しながら東洋医学の視点を交えて講演を行った。特に水野氏が医学の道を志すきっかけとなったという更年期障害について、日頃から生活を見つめ、さらに婦人科疾患においては段階的に経過を追っていく必要があるとした。

 更年期という言葉について、水野氏の解釈として、「更」の字は、更新の字と捉え、機械でもアップデートするとシンプルになる。知力を使っていかにシンプルに考えるか。体力は落ちるが、若い世代を育てる意味と、ありがたく若者の力を借りて不足分を補う転換期と考え、予備力を持って生活することで、心が深まり、人生の黄金期として形成することが可能になるのではないかと問いかけた

 教育講演 2「腸内環境と東洋医学」では、山口貴也氏(山口醫院院長)が、腸内環境と心や臓器の関連、東洋医学と腸内環境の関連、簡易な腸内環境を良くする方法を伝えることを目標に演台に立った。はじめに腸内細菌について、二千種類以上で百兆の菌が存在し、人間の細胞数より多いと述べ、俗に聞く善玉菌や悪玉菌は、人間にとって良いものと好ましくないものという人間にとっての都合上の区別であり、完全な善玉菌や悪玉菌はないと伝えた。また、腸内環境によって性格の良し悪しが変わるといったデータを参考に、腸と脳の状態がお互いにリンクし、作用していると示唆。菌には、人間の幸せホルモンであるセロトニンをつくる菌や風呂場やキッチンにいるバイオフィルムなどさまざまであり、腸内環境をつくるのは飲食物や蠕動運動が関係している。さらに都市で生活している人はあまり影響を受けないが、田舎で暮らす人は季節に応じた菌が体内に入るため、腸内環境が変わると述べた。

 菌が先か腸が先か?という問いに対し、山口氏は菌が先と一答。空洞があるところに菌が存在する。菌が住むため、菌を守って移動させるために動物が出現したのではないだろうかと展開。菌がいて、それを守るために細胞が集まることで、空ができ、移動手段ができるとそれをコントロールするために神経系ができ、さらにそれらを統制する脳ができたというようにも考えられるのではないかと仮説を立てた

 教育講演 3「漢方薬の基礎知識」にて、津嶋伸彦氏(東京女子医科大学東洋医学研究所医局長)が鍼灸師は患者の服用している薬を把握しておく必要があり、質問を受ける機会もあると考え、知っておいた方が良い漢方薬に関する基礎知識について講演を行った。漢方医学の起源から、日本漢方の特徴は腹診にあること。漢方薬は生薬(動物性、植物性、鉱物性)の組み合わせであること。加えて、漢方薬の作用は「汗、吐、下、和、温、冷、利」に区分されること、また治療効果をあげるための服薬指導、例えば漢方薬の名称ではない漢方薬を知らずに服用しているケース、症状の鑑別の中に薬剤性の可能性も考え、西洋薬も含めた服用歴の確認をするなどを挙げた。

 津嶋氏は、漢方薬の中で名称の末尾に「湯」と付くものは、温めて服用することを意味し、お湯に溶いて服用すること。また、処方が合わない場合や症状が改善した後の服用は蓄積し、過剰投与になるなど、副作用についても注意喚起した

創立50周年記念賞受賞記念講演

 受賞記念講演 1「『臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法』執筆の基本的コンセプト」と題して、篠原昭二氏(経絡腧穴研究会代表)が登壇。まず臓腑病、経脈病、経筋病の明確な定義が確立されていないことや、自身の経筋治療の研究のスタートとなったできごとを語った。経筋治療について、『霊枢(経筋篇)』では、燔鍼劫勅という焼き鍼を用いて、治るまで刺すと記述があることに対し、篠原氏は円皮鍼、皮内鍼、毫鍼を使い、効果がなければ異常経筋を再検査する、または臓腑病の関与を考慮すると自身のやり方と対比した。

臓腑病、経脈病、経筋病の整理を企図した著書『すぐ使える若葉マークのための鍼灸臨床指針: 臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法』の執筆の経緯について話題に取り上げた

 受賞記念講演 3「鍼灸古典文献の基礎学」では、小林健二氏(日本内経医学会)を招き、小林氏が日本内経医学会でつくった資料や、そのために活用した道具をすべて公開し、本講演を通して伝統鍼灸学会の会員が、同じ環境で鍼灸に関する古典資料を学ぶ場を提供するとした。はじめに日本内経医学会について、『素問』『霊枢』の科学的な研究を行ってきた過去を振り返り、 古典文献の翻字、データベース、中国本の翻訳といった活動における当時の苦労話を語った。出版物をデータ化し、単語の検索、ボタンひとつで画像へリンクさせるなどの使いやすくまとめる工夫に尽力した取り組みを紹介し、『医古文基礎』はぜひ読んでほしいと呼びかけた。

 Excelにまとめた鍼灸に関する古典のリスト表を供覧し、漢字ひとつでもこのようなリストをつくっておくと研究の際にストレスがないと、小林氏。小曽戸洋氏の雑誌に掲載されていた解説などもリンクさせているという。また、国会図書館には会員登録をすると、個人へデータを送信するサービスがあるので活用するよう推進した

実技供覧

 実技供覧1「触診と遠隔治療を基本とした鍼灸治療」では、形井秀一氏(つくば国際鍼灸研究所所長)が講師を務めた。まず形井氏は実技の前に、患者の心と身体は時代や社会と密接に関係し、反映されると前置きし、日本の鍼灸臨床の場において、身体的な改善を目的とする訴えが多くある中でも心理的訴えを持つ患者がいること。厚生労働省がまとめた国民生活基礎調査の資料や東洋療法学校協会の進路状況アンケートなどを参照し、不定愁訴や心身症について考えた。鍼灸治療者に求められるものは、患者の「からだと心の苦しみを軽減する」ことと伝え、その具体的な方法を教授した。

 実技に入ると、「自らが治療を行って効果が得られることは当然なので」と、会場にいる聴講者が形井氏の教える術を実践するよう促すと、実際にその効果を形井氏が確認するという一幕があった

 実技供覧2「東洋はり医学会方式における腎虚証の治療」で谷内秀鳳氏(東洋はり医学会会長)は、まず東洋はり医学会について、1959年、東京古典はり医学会として創立され、会員数の増加に伴い東洋はり研究会に改名し、その後、現在の東洋はり医学会へと変わったという成り立ちから入ると、腎虚証における診察、診断、治療のプロセスを解説したのち、実技を披露した。

 谷内氏は、腎虚証の治療について、まず主訴、次に体質、症状の陰陽虚実の判定、望診、聞診、問診、経絡腹診、切経、脉診を行い、証決定、適応側の判定、本治法、標治法、補助療法と手順をレクチャーした

 実技供覧 3「積聚治療とは」では、原オサム氏(積聚会会長)が講師を務めた。積聚とは、腹部に出現した全身の不調の反映であり、積は陰の気の滞り、聚は陽の気の滞りとして顕著な腹積を指標に腹証を決定。主な症状への緩和治療というより、表層の施術から各指標の変化に応じて治療を行うことで、結果として生命力の補正を目的にしているという。

 原氏は、望診、聞診、問診は座位、切診を仰臥位、背部の指標確認を伏臥位にて行うなど治療の基本手順を示し、腹部や背部の区分を図で解説。腹部への接触鍼をデモンストレーションした

 実技供覧4「経絡治療の治療方式」にて演者を担った今野正弘氏(経絡治療学会)。今野氏は師事した樋口秀吉氏の行った管鍼法での浅刺、多穴、置鍼法へと治療方式を変更した過去について触れ、実技を主に進行した。

 自身の治療スタイルを披露した今野氏。本大会の最後の演目としてトリを飾った

 ビデオ実技供覧〜私の臨床のコツ〜では、2人の巧手が説示を加えながら実演した様子を撮影し、スライド上映した。はじめに「私の臨床のコツ」と題して、首藤傳明氏(日本伝統鍼灸学会顧問)の動画が映し出され、初期の経絡治療のやり方より単純だが良く効くとして、その技を見せた。肝虚証に対する治療では曲泉に、鍼を打つ際は「最初の一本に全力投球する」と要所を抑えた
 続けて、「坐骨神経痛の治療」池田政一氏(小泉治療院/池田薬草店)の実演ビデオが放映された。診断の基本から本治法の重要性、灸頭鍼での注意点、柳谷式単刺の方法を解説し、坐骨神経痛については、腰痛が治ると患う人が多く、井上恵理が創成した長柄鍼を用いても良いと実況を交えながら話した。最後にどの患者でも肩の散鍼で終えるとし、「皮を刺しても身を刺すな」と結んだ

シンポジウム

 シンポジウム「『証について』腎虚証の捉え方と治療」にて、浦山久嗣氏(経絡治療学会)が文献主義的「腎虚証」について、続けて今氏崇人氏(東洋はり医学会)、高橋大希氏(積聚会)、坂井祐太氏(北辰会)の4人を迎えてそれぞれ発表を行った。また、司会進行役を務めた手塚幸忠氏(新医協鍼灸部会)より日本伝統鍼灸学会賛助団体へのアンケート調査の報告がなされた。各シンポジスト発表後のディスカッションでは、「諸先輩方の本が大量に出ているので、独学し放題の良い時代。本を読むことが勉強になる」と高橋氏。今氏氏は「技術というのは触れなければ分からない世界。理論のみで鍼は打てない。学校で学んだことは一端脇に置いて、感じること、感性を磨くことが重要。学者を育てることが目的ではなく、自信を持って治療ができる人を育てることが我々の使命」と強調すると、浦山氏は「臨床家になりたい人は多いが、学問をやりたいという人が少ない。臨床ができる学者を育てたい」とアドバイスした。

 シンポジスト4人。左から、浦山久嗣氏(経絡治療学会)、今氏崇人氏(東洋はり医学会)、高橋大希氏(積聚会)、坂井祐太氏(北辰会)

学術部セミナー、学生セミナー、国際部セミナー

 学術部セミナー「伝統鍼灸における医療面接」を主題に登壇した奈良雅之氏(目白大学大学院心理学研究科教授)は、臨床心理学の知見が証決定に役立つとして、臨床の場における施術者と患者のコミュニケーション=医療面接について、近年は治療に必要な身体的側面の情報だけでなく、患者の心理的側面や社会的側面についても聴取することで患者を全人的に理解し、患者中心の医療を実現することに貢献しているとその重要性を認識し、特徴についても議論するとした。精神分析における防衛機制の知識は、医療面接を構成する3つの役割のひとつであるラポールの確立と患者の感情への対応を充実させ、さらに認知行動療法の一種のセルフモニタリングは、患者教育と動機づけにとって有用であるという見解を述べた。

 臨床心理学など他領域の臨床的知見を理解することは、医療面接の認識の変容をもたらすとともに、日本伝統鍼灸の奥行きを広げることに通じると奈良氏。中医心理学にも焦点を当て、その起源について触れた

 学生セミナー「あの先生のおすすめの本」と称して、本会教育委員会委員長の高橋大希氏が学生の間に読んでほしい鍼灸関連の本を聞き集め、推薦者の奨める理由とともにスライドに映し、その中でも特に岡田明三監修『名人たちの経絡治療座談会』、木戸正雄編著『脈診習得法(MAM)だれでも脈診ができるようになる』、形井秀一著『治療家の手の作り方』、宮川浩也著『鍼灸師のタマゴに贈る養心のすすめ-健康と心技体』、佚斎樗山著『天狗芸術論』は、2人の推す声が挙がったと紹介した。

 鍼灸人生を左右することもある人との出会いも大切だが、学生に出会ってほしい本を列挙するとして、本との出会いの仲人を務めると、高橋氏

 国際部セミナー「老中医の伝統鍼法」にて発表を行った日本伝統鍼灸学会国際部の日色雄一氏(傳統醫學研究所、日色鍼灸院)。「中国伝統鍼法、鄭氏鍼法の補瀉」と題して、鄭氏鍼法の一端を伝えるとした。

 本講演では、鄭氏鍼法の3つあるのうち、『内経』『難経』『鍼灸大成』などの中医文献に見える伝統鍼法を治療の主軸とするという特色に着目した

 また、同国際部の藤原大輔氏は「張士傑の鍼法」と題して、張士傑氏の太溪穴の臨床応用について紹介した。

一般口演、その他

  • 「輸脈に対する解剖的な読解の試み」

   大西宏治(関西漢法苞徳之会)

  • 「伝統鍼灸の症例報告からみた更年期女性と性成熟期女性の愁訴と病証の比較」

   菅原千秋(明治国際医療大学 大学院 鍼灸学研究科) 

  • 「『論経絡迎随捕瀉法』刺傷寒結胸痞気の配経について」

   利川鉄漢(関西漢法苞徳之会)

  • 「『生生堂塾経』と『生生堂鍼灸経』について」

   関屋成彰(立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員)

  • 「山脇東門『東門随筆』自筆稿本によりみえる江戸中後期の医学について」

   久保昌紀(日本内経医学会、四国医療専門学校)

  • 「難治の肢端紅痛症が鍼灸治療で改善した一症例」

   大浦宏勝(東洋鍼灸専門学校、いやしの道協会)

  • 「18難による診断(脈診と腹積)」

   山下典子(気血研究会)

  • 「時空弁証のすすめ」

   中野正得(日本はり医学会)

  • 「小児の肩凝りと頭痛による1症例」

   柿田千鶴(東洋はり医学会)

  • 「陰陽太極の思想を基に鍼を使用し、強い筋肉の凝りが解消できる現象を、伝統鍼灸的効果判定方法を用いて検証した一考察」

   中谷哲(耳介画像鍼・練灸治療研究会、関東鍼灸専門学校)

  • 「経産婦のお母さんと予定日超過の考察」

   川合真也(鍼道五経会、鍼灸整骨院かわい)

  • 「『鍼灸備要』編集についての一考察」

   加畑聡子(北里大学薬学部附属東洋医学総合研究所、日本伝統医学総合研究所)

  • 「恥骨の異常所見の重要性と、それに対する瀉法鍼の有効性」

   二木清文(滋賀漢方鍼医会)

  • 「経路骨盤調整療法が奏功した症例」

   森下翔太(日本はり医学会)

  • 「日本はり医学会方式「経路頚肩部調整療法」による補助療法

   田中亮(日本はり医学会)

  • 「鍼灸だけで解決しなかった丘墟・金門の虚が環境・歩行動作改善で変化した症例群」

   川腰剛(和ら会)

  • 「刺痛は瘀血か?」

   関真亮(常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科)

  • 「伝統的身体操作・経穴認知を客観化する」

   小川一(東洋医学研究所、日本鍼灸理療専門学校)

  • 「投薬でしか排便できなかった小児の便秘が流氣鍼®の手法により改善した1症例」

   森野弘高(漢方やさしい小児はりの森 東海、三河漢方鍼医会)

 また、会場内の会議室では協賛企業による出展ブースが設置され、販売会が催された。多くの関連業者が出展し、参加者の目に留まっていた様子。

 アーカイブ配信・視聴については、下記、日本伝統鍼灸師会東京大会のホームページをご確認下さい。

 ※一部配信なし

https://52-tokyo.jtams.com/posts/767

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