第45回公益社団法人東洋療法学校協会学術大会レポート
第45回公益社団法人東洋療法学校協会学術大会が10月10日(木)大阪国際交流センターにて開催された。「Do more with less ~最小の刺激で最大の効果をもたらすあはき~」をテーマとして、全国各地より1160人が来場。また、オンラインでは233人の参加があった。
開会式
開会式では、副会長の大麻正晴氏が開会の辞を述べると、次に会長の清水尚道氏は、「学校を卒業されたら業界団体、学部団体に入り、こういった学術大会に参加したり、発表することになれば素晴らしい」と伝えた。続けて、加盟校の学生が一堂に会する機会から「他校の学生同士が会うタイミングはあまりないので、この場面でいろいろな交流や横のつながりを見つけていただきたいと」と、集まった学生らを激励し、高まる学習意欲を鼓舞した。
教育講演
開会式後に行われた教育講演では、「最新科学が解き明かす鍼灸とファシアとの関係」と題して、建部陽嗣氏(アボットジャパン合同会社総合研究所室長)が演台に立った。はじめに自身が翻訳を担当し、現代科学のパラダイムに則って鍼灸を解説した書籍『閃く経絡』(原題:The Spark in the Machine)を紹介。本書の随所を引き合いに、ファシアについて、訳すうえで苦労した点を語った。続けて、世界における鍼に関する英語の論文数の多さに触れ、時代を遡って1974年のニクソン訪中、1997年のアメリカ国立衛生研究所(NIH)の合意声明などを起点として盛んになったことを振り返り、比較すると、日本では圧倒的にその数が少ないことを指摘。世界に目を向けてもっと発信していくべきと語った。また、米国国立図書館が提供しているデータベースPubMedで検索できる14,346本のデータを手に入れる方法を日本の鍼灸界はまだ取得できていないことに建部氏は警鐘を鳴らす。さらに、鍼の研究はすべて東洋医学がスタートで、それを解明するために現代科学を使っている。東洋医学を無視した研究は存在しないこと。そのことから現代鍼灸という言葉は日本のみで使われ、本来用語として在ってはならないと自説を主張。経穴を使った際の鍼灸や解剖学などを説明するのが現代鍼灸で在るべきと補足した。
『閃めく経絡』現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!
英国医師ダニエル・キーオン著
王居易医師のもとで鍼灸を学んだ著者が発生学と経絡の関係性に着目。鍼灸治療の考え方を見直し、新しい治効メカニズムに迫る。
続けて、口頭発表全12題、ポスター発表全24題が行われた。
口頭発表①
演題1
「OHQ57を用いた五臓タイプ診断と五味の関連性」
MCL盛岡医療大学校
演題2
「握力回復に及ぼす直刺・交叉刺・直交刺の比較研究」
大宮呉竹医療専門学校
演題3
「東洋医学的『痰湿』への円皮鍼刺激によるダイエット効果と体質への影響」
東京呉竹医療専門学校
演題4
「竹の輪灸の効果検証」
東洋鍼灸専門学校
口頭発表②
演題5
「遠隔経穴への温熱刺激が記憶力に及ぼす影響」
東京医療福祉専門学校
演題6
「鍼通電刺激が頭皮血流量に及ぼす影響」
日本医学柔整鍼灸専門学校
演題7
「経穴刺激における短期記憶の変化」
履正社国際医療スポーツ専門学校
演題8
「声掛けの有用性の検証 ~声掛けの性質とシチュエーションの違い~ 」
大阪行岡医療専門学校長柄校
口頭発表③
演題9
「単刺と置鍼による首の可動域比較」
大阪医療技術学園専門学校
演題10
「鍼刺激とストレッチによる体前屈への影響」
大阪ハイテクノロジー専門学校
演題11
「冷え性に対する治療穴について」
京都仏眼鍼灸理療専門学校
演題12
「月経随伴症状に対する円皮鍼を用いた鍼灸治療効果」
森ノ宮医療学園専門学校
ポスター発表
演題13
「廉泉穴への円皮鍼貼付が舌圧及び体位変換による血圧・脈拍数に及ぼす影響」
北海道鍼灸専門学校
演題14
「円皮鍼刺激と嗅覚刺激・温熱刺激と併用が舌圧に及ぼす影響についての予備的研究」
北海道鍼灸専門学校
演題15
「粒針刺激と材質による疲労度軽減の検証」
仙台赤門医療専門学校
演題16
「肩こりに対する運動指導の有用性 ―肩こり体操と八段綿の比較― 」
日本鍼灸理療専門学校
演題17
「後頚部指圧による文字視認距離の変化について」
日本指圧専門学校
演題18
「超音波画像診断装置を活用した総腓骨神経への刺鍼」
国際鍼灸専門学校
演題19
「頭部への鍼通電刺激による胃電図の変化 ―健常人1事例における検討― 」
スポーツ健康医療専門学校
演題20
「台座灸の刺激が脳波に与える影響について」
日本健康医療専門学校
演題21
「太渓穴への鍼刺激による瞬間的記憶力向上について」
湘南医療福祉専門学校
演題22
「酒は百薬の長?百毒の長? ~古典より読み解く、いにしえの謎~ 」
横浜呉竹医療専門学校
演題23
「顔面部経穴への刺鍼刺激による肌質の変化」
専門学校浜松医療学院
演題24
「小海穴鍼刺激による緊張性発汗への影響」
専門学校浜松医療学院
演題25
「サッカー選手のパフォーマンスに与える円皮鍼の影響」
専門学校浜中央医療健康大学校
演題26
「台座灸刺激が頭部前方位姿勢に与える効果」
中和医療専門学校
演題27
「肩井穴圧痛軽減に対する循経取穴の効果について ~光明穴を指標として~ 」
京都仏眼鍼灸理療専門学校
演題28
「委中穴の刺激における腰背部の経穴の硬さ変化」
明治東洋医学院専門学校
演題29
「中高年の眼精疲労への影響 ~太陽穴への円皮鍼セルフケア~ 」
関西医療学園専門学校
演題30
「頭部への手技と鍼通電の満足度比較」
大阪医療技術学園専門学校
演題31
「鍼と灸による保湿効果の比較」
大阪医療技術学園専門学校
演題32
「鍼通電によるバストアップ効果の比較」
大阪医療技術学園専門学校
演題33
「鍼刺激とひびきについて」
履正社国際医療スポーツ専門学校
演題34
「陽陵泉への電気温灸器による温熱刺激が立位体幹回旋に与える影響」
四国医療専門学校
演題35
「五色が五臓にもたらす影響」
福岡医療専門学校
演題36
「セルフケアに繋がるお灸体験を目指して ~鹿鍼祭アンケートから見えてきたもの~ 」
鹿児島鍼灸専門学校
特別講演
今大会プログラムの最後を飾る特別講演「頭鍼療法の臨床 少ない頭皮刺激で全身を整える」を題目に、富田祥史氏(一般社団法人山元式新頭鍼療法YNSA学会理事関西支部長、康祐堂あけぼの漢方鍼灸院院長)が登壇した。冒頭にて、頭皮鍼の臨床症例として、脳神経疾患、片麻痺、パーキンソン病をピックアップ。また、視野欠損の回復、帯状疱疹の改善など、その有効性について言及した。その他にも、アルツハイマー、リウマチなど有効な症例を列挙。実際に治療をした患者の術前と1年後を比較し、その効果のあらわれを映像で供覧した。続けて、頭皮鍼の診断点と治療点をスライド上で示すと、最近の研究では、自閉症に対する頭皮鍼があると述べ、その刺激ポイントを教唆した。頭皮鍼のはじまりについて、ペンフィールドやブロードマンの脳地図を投影した頭皮鍼が中国で起こり、1960年代末には中国の脳外科医であった焦氏をはじめ、他に方氏、朱氏らが拡げていったとその歴史を紐解くと、YNSAはツボが少なく、基本的に誰が行っても同じであり、ある程度上達しないと効果が得ることが難しい中国式頭皮鍼療法との違いを概説。YNSAは座位、仰臥位などの体位を問わないこと、長年の経験を必要としないといった特徴から理想の治療法であると語った。富田氏は、チャートやフローを用いてそのプロトコルを解説すると、実際の治療の流れをビデオ供覧し、鍼の番手は寸3-5を使用していると説明を付け加えながら、圧痛点に刺入することがポイントと明示した。また海外では、アメリカ、ドイツ、オーストラリア、イタリア、ハンガリー、ブラジルなど世界での普及状況について報告した。
『YNSA症例集 山元式新頭鍼療法実践ガイド』
山元式新頭鍼療法YNSAを習得するための必携の一冊!
監修 : 山元敏勝
著者 : 加藤直哉、冨田祥史、丹羽祐子、高橋沙世
すべてのセッション終了後、閉会式にて、口頭発表、ポスター発表の各賞の表彰が執り行われ、今大会は幕を閉じた。大会後には同会場内にて懇親会が開かれた。
また、エントランスホールでは、業者による実際に手に持って試したり、製品について直接聞くことができる展示販売会が催された。