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首藤傳明症例集 鍼灸臨床50年の物語

すべての鍼灸師におくる「指南書」 

鍼灸師として進むべき方向と脈診に悩む人に支持されているロングセラー『経絡治療のすすめ』、流派を超えて絶賛された『超旋刺と臨床のツボ』。満を持して登場した首藤傳明氏の新刊は、開業当時から現在までの症例の記録とその考察を、鍼灸臨床50年の集大成としてまとめました。長年の経験から生まれた迅速かつきめ細やかな患者の診方から、「超旋刺」はもちろん刺入鍼やてい鍼の使い分け、経絡治療と独自の選穴を組み合わせた治療法、さらに日々の試行錯誤や発見、後悔、そして患者への心配りも記されています。独自に使っている私方穴(ツボ)の図は、すべて首藤氏の直筆画です。
退屈になりがちな症例記録を、独特の語り口で物語風にまとめているので、初学者でも楽しみながら、すらすら読めます。治療のポイントを取り上げたQ&Aコーナー、さらに昭和59年から月刊「医道の日本」に連載され、悩める鍼灸師の共感を呼んだ『繁栄の法則を求めて―開業当初の苦心記―』も、完全収録。流派や世代を超え、長く繰り返し読んでいただけるよう、耐久性に優れた美しい装丁を採用しています。
ISBN978-4-7529-1400-6
著者首藤傳明
仕様A5判 567頁
発行年月2013/02/01
価格7,920円(税込)

目次

序章
第1章 頭部・顔面部の病
第2章 耳・口・歯の病
第3章 頚肩上肢の病
第4章 腰下肢の病
第5章 下肢の病
第6章 各関節からみる病
第7章 呼吸器系の病
第8章 鼻の病
第9章 循環器系の病
第10章 消化器系の病
第11章 肝臓の病
第12章 泌尿器系の病
第13章 婦人科系の病
第14章 その他の病
第15章 鍼灸で楽になる不調
第16章 臨床での心得
●付録『繁栄の法則を求めて―開業当初の苦心記―』

著者インタビュー

『経絡治療のすすめ』『超旋刺と臨床のツボ―鍼灸問わずがたり―』に続き、待望の新刊『首藤傳明症例集―鍼灸臨床50年の物語―』を上梓された首藤傳明先生。今回は、約50年の臨床経験をまとめた症例集です。末尾には付録として、昭和59年に「月刊 医道の日本」に連載された『繁栄の法則を求めて―開業当初の苦心記―』も収録され、鍼灸師の「座右の書」となる1冊です。首藤先生に、執筆の裏話やおすすめの項目などをうかがいました。
――先生は、「症例集は退屈になりがちだから、読み物として楽しめるように書いた」とおっしゃっていましたが、かなり昔の、たとえば40、50年ぐらい前の症例をまとめる際に、何か気を使われたことはありますか。
首藤第一に、文章そのものです。文章は読んでもらってこそ価値があります。内容がすばらしくても難解であったり、リズムにのってないと、途中で投げ出されてしまいます。文章力の差でしょう。私の師匠・三浦長彦先生は国語漢文の教師の経歴から、こう言っていました。「代田文誌先生は文学出身だけあって文章がうまい。柳谷素霊先生の文章は固い」と。なるほど、代田先生の文章は、どの本でも楽々読める。『鍼灸治療基礎学』(小社刊)をはじめ、どの書でもつい引き込まれる味がある。売れ筋かどうかという話とも関わるでしょう。私も読んでもらうための文章を心掛けましたが、こればかりは努力だけでは如何ともしがたい、生まれつきの才能があります。

40〜50年前の症例を扱うことで注意しましたのは、正確さです。大事な症例は記録してあります。すばらしい症例でも、記録のあやふやなものは割愛しました。ぜひ載せたい症例については、当の患者さんと話し合って決めましたが、ほめられたものではありませんね。読者の参考になると思った症例は、あえて成績が良くなかったものも入れました。
――個人情報保護の観点から、症例の治療年月日などを伏せるのが一般的になりましたが、本書では時代背景をつかめるように「昭和40年代」など、記録が鮮明でないもの以外は、大体の治療時期が明記されていますね。脳卒中の項など、患者さんの血圧の高さに驚きました。非常に高血圧で、病院ではなく先生のところにいらしていたというのは、患者さんがかなり先生を信頼されていたからなのでしょうか?
首藤その頃の高血圧、脳卒中の治療は、在宅治療、医師の往診、安静が主でした。その点、往診、鍼灸治療ですばらしい成績があがりました。患者さんに鍼灸の効果を宣伝していただいたおかげで、まず鍼灸の先生を呼ぶ、鍼灸の先生が病院を指示されたら、そうしようという関係でした。ありがたいことですが、それだけ、こちらにも責任があります。半世紀たって、西洋医学は長足の進歩ですが、どの疾患であっても、どの時点で病院に紹介すべきか、今も頭の痛い判断です。常に勉強すること、また信頼できる医師の先生との関係が望まれます。
――DVD(『首藤傳明の刺鍼テクニック―超旋刺と刺入鍼―』)でもおっしゃっていましたが、本書でも超旋刺や刺入鍼の組み合わせ、治療のメリハリについて語られています。治療時間は患者さんお一人あたり20〜30分とのことですが、どの患者さんにもかなりの数の経穴を使ってらっしゃいますね。どんなに忙しくても、一人一人の患者さんに誠意を尽くされる先生の姿勢がわかります。
首藤証が決まれば、本治法1本と局所1〜2本が治療の主軸となります。が、本治法をもっと広範に行えば、たとえば肝虚証では曲泉、陰谷を補し、陽経である陽輔、飛揚を瀉し、そしてその相克経の陽経、曲池、解渓を補します。兪穴では肝兪、腎兪。募穴では期門、京門を使います。

他に、本治法的な使い方として、今思い浮かぶのは、
1.関節疾患:肺兪、小腸兪の施灸
2.めまい:耳めまい点(私方穴)、大敦
3.ぎっくり腰:腸骨点(私方穴)、ふ陽
などです。本書にも書いています。

脉診しながら、どれを取捨するか、ツボを探りながら判断します。私が治療をしてもらっても、本治法のあと、反応を診ながら全身の悪いツボへ治療をしてもらうとすっきりしますし、満足感があります。

患者さんの場合、主訴の治療だけでなく、できれば全身の反応を診て、治療すべきは治療する。さらに、慢性病のある患者さんには、その治療を加える。糖尿病だと中かん、左梁門、脊柱、左脾兪。こうなると忙しくなります。すばやい刺鍼、選穴が問題になります。そういう目で見ますと、本治法以外に必ず刺鍼する経穴が浮かんできます。曲池、足三里、風池、肩井、飛揚です。症状のない、病気予防で来院される患者さんには、いろいろ考えて、というよりも自然に、そのような治療が行われています。

天皇陛下の心臓手術を担当した順天堂大学心臓血管外科教授天野篤先生曰く、「手術中は、頭を使っているのは15%ぐらいです。85%ぐらいは反射的に手を動かさないといけない。たとえば、ピアニストに似ていますよね。今弾いているところの先の楽譜を見ているように、外科医は手術の先にあるところを見ています」。理想の境地です。
(編集部注:「私方穴」は首藤先生独自の取穴です。本書に図入りで紹介しています)
――患者さんに自宅での灸療をすすめているようですが、あまりお灸をやりたがらない患者さんもいますね。そういう方にはどう対処しているのでしょうか?
首藤灸を嫌う患者さんが、非常に多くなりましたね。理由は、熱い、みにくい痕が付く、不器用でできない、面倒くさい、などです。

対処としては、
・熱い→最初は八分灸、かさぶたができたら普通の灸に移行します。
・灸痕→ご婦人の場合はもっともで、八分灸または台座灸をすすめます。
・不器用→誰でも最初はできません。なれると上手になります。もぐさをひねる動作は大脳を刺激して、健康、美容、長寿をもたらしますと、脳内ホルモンの学説を披露します。
・面倒くさい→来院時の治療だけで結構です、と言います。
・難病→他にあまりよい治療法もない、なんとかこのつらさを軽くしたい、という患者さんは、必ず灸をすえる決心がつきます。

灸をしたことがない方が、皮膚を焼くなど前近代的と思われるのはもっともで、難病を灸療で治してもらった方でもないと、心底理解できません。治癒の機転、好転した症例の紹介、灸療をすすめる理由などを熱心に説明します。

灸療では熱くないように、負担を軽くする意味で、灸療の経穴数を少なくする、自分でできる経穴を選ぶ、などと工夫します。
――本書の症例は、どれも臨床で活用できるものだと思いますが、中でも特にこれを追試してほしいという疾患は、どのあたりでしょうか?

首藤前の解答と重なりますが、少数穴で効果があるものとしては
・めまい:耳めまい点、大敦
・しゃっくり:太白
・顔面神経痙攣:合谷、足三里
・ぎっくり腰:腸骨点
・下肢痙攣:環跳
・痔核:会陽
・喘息、咳:腋窩点(私方穴)
などです。脉がまだわからないという方にも、試してみてほしいですね。
――今回の症例集を含めて、個人的に「首藤3部作」と呼んでいますが、先生の今後の展望を教えてください。
首藤在野の臨床鍼灸師の仕事を、3冊まで公にしていただいたことは、ありがたいですね。これからは、珍しい症例、難病に遭遇して、よい成績を挙げられれば、発表したいと思います。『補遺篇』です。100歳現役が理想(?)ですから、集まりそうな気がします。ほかに、患者さんに読んでもらえるような、わかりやすい鍼灸治療の解説書ができないかと思っています。『こんなにも効く、はりきゅう治療』とか。外野から、止めとけ!の声がかかりそうです。
――そんなことはないと思います(笑)。今後も変わらぬご活躍を期待しております。ありがとうございました。

首藤先生が独自に使っているツボ(私方穴)の絵は、すべてご自身の作。鍼灸師の視点で描かれているので、ぱっと見てもわかりやすい。臨床の際にさっと開いて参考に、また休憩時間に読んでもほっとできる1冊